オトナノススメ

怒髪天・ボーカル 増子直純

オス!怒髪天ボーカル・増子直純です!さて、ありがたいことにですね、この視点・論点、私の出番が3回目となります。私ですね、ロックバンドのボーカルという職業柄、社会、経済、政治、世界情勢、果てはですね隣に住んでるおっさんにまで言いたいことがてんこ盛りにございます。そこでですね、今回のお題はですね、「オトナノススメ」。これは先日めでたくですね、成人を迎えられた若者たちへ、俺からのメッセージということでね、今回このタイトルにいたしました。実はこれですね、2009年に私のやってるバンド怒髪天、これが出した楽曲のタイトルでもあります。これはですね、今回、その歌詞からですね、紐解きながらお話したいと思います。

まず、何故この曲を作ろうかと思ったのかと言いますとですね、この私、17歳のときにパンクロックにしびれましてですねバンドを始めました。それでこの怒髪天という厳つい名前を付けました。この時からですね、パンクの常套句であります「Don’t trust over thirty」日本語で言いますと「大人を信じるな」というね、この常套句にしびれまして、大人は社会の歯車だ、傀儡だ、操り人形だ、生きる屍だと、何となく、そんなことを言うのがかっこいいんじゃないかと思ってそういう歌詞を書いてきました。何の実感も無くでございます。これはですね、いろんなロックバンドのやつが経験したと思いますけど。

それがです。バイトをしながらバンドを続け、30を過ぎ、40を過ぎ、我々ね、40過ぎまでバイトをしながらバンドをやってました。その時に、あれ?ちょっと待てよと。おかしいぞと。誰だこれ、大人はつまらない、大人を信じるな、大人なんか夢はない、傀儡だと、社会の歯車だ、何て言ってたのは誰だと。大人これいま、面白くね?現状の方が子どもの時より楽しいんですけどと、感じたときに、これは過去の自分に対してですね、アンサーソング、このDon’t trust over thirty、大人を信じるなに、ちゃんと答えを、自分で出さねばいかんと思って作ったのが、この「オトナノススメ」ですけども、これはですね、歌詞の冒頭「大人になりたくない。子どものままがいい。無理だった。生き物だから。それは無理だった」物理的にこれは無理でございます。大人になりたくないと言っても、子どものままは無理。そして働きたくないし、遊んで暮らしたい。それも甘かった。そんな家には生まれていない。寝てるだけでも腹が減る。だったら働いて自分で食うしかない。これが大人である。そんな大人に対してですね、子どものことはもう、大人になりたくない、何か大人って怖い大人になるなんて恐ろしい、そう思ってました、俺も。それは何故か。周りの大人たちがつまらなく見えてしまう。何か会社に行って帰ってくるだけで、そんな親父の背中を見て、何か寂しく、あんな風にはなりたくないなんて思っていた人も多いと思います。

それは違います。お父さん、家には家の顔です。お父さんの顔になります。家から一歩出れば、会社が終わって楽しい時間もございます。大人は何しろですね、お酒を飲むこともできます。小学生でどんなに悪い点を取って先生に怒られても、帰りに一杯ひっかけるなんてことはもう、これはもう許されることではございません。しかし、大人になるとそれが許される。ビール、これは素晴らしい飲み物です。飲み物でありながら、生きていて良かったと、このために俺は生きているんだと、思わせてくれる液体はビールしかございません。この一杯があるだけで、大人になって良かったなと、そう思うことすらあります。

若気の至り、よく言いますけども、若い頃の無茶をよく大人は自慢します。「俺だって、やんちゃだったんだよ、昔は」。そういうことではないです。大人、男で言うと、おっさんの時期というのはですね、これが大人になったある時、気づきます。人生のほぼ半分以上、おっさん期です。中年期なんです。このおっさんである、大人である時期を充実させないで果たして人生の充実はあるのか?いや、それは無いです。若い頃の無茶は誰にでもできます。人生を背負って、家族を背負って、責任を背負って大はしゃぎする。これこそが、大人の醍醐味でございます。

人生の半分以上を占める、このおっさん期を楽しんでいく。そして大人になった、その楽しみを前進で喜ぶ。会社で怒られた、苦いこともあります。自分が必要とされてないんじゃないか、そう思う、若者期間ですね。どうしても逃げられない責任を背負う、大人の大人期に入った時に、いや、必要とされてないんじゃない、いまここは、皆が嫌でも俺がやらなければいけないんだと。その責任を背負ったときに、俺もこの社会、それは歯車ではない、一部なんだ。ちゃんとした、生きている、この社会に大事な一部なんだということをですね、背負ったときに、これまた自分の生きている意味という、そういうものが発見できるんではないかと思っております。

人生が一冊の本であれば、これはですね、若い頃、例えば30巻の本だとします。若い頃、10巻ぐらいでは、全ての登場人物は全部出揃いません。それこそ30を過ぎた15巻以降です。そこでやっと登場人物が揃い、物語は佳境に入っていく。そして名作であればあるほど、物語は後半に盛り上がっていくものでございます。大人。大人になった時の痛み、苦味、それを背負いつつ、人間は生きて行く。そして云わばドM的に、その苦味も酒の肴にして、生きていこうじゃないかと。人生というバッターボックスに立ち続け、そうしたらデッドボールでも塁に出ることはあります。そんな大人に若者たちはですね、早くなって欲しい。早くこっち側に来いと、楽しいよと。大人の方が絶対楽しいです。宿題も無いですからね。何しろ、いろんなもの背負って、大はしゃぎする、その醍醐味を味わって欲しいと思います。

大人はサイコー!

視点・論点 「オトナノススメ」より